宮本武蔵 独行道

(現代語訳 井沢元彦氏)

  • 世の中のさまざまな道に背いてはならない。
  • わが身の楽しみを追い求めてはならない。
  • どんなことにもそれをたのみにする心を抱いてはならない。
  • 自分中心の心を捨て、むしろ世の中のことを深く考えるように。
  • 一生の間、欲深いことを考えてはならない。
  • 一度したことについては後悔をしてはならない。
  • 他人の善悪について嫉妬してはならない。
  • いかなる道についても(おそらく人生、つまり愛する人との別れ、あるいは肉親の死なども含めて)、別れを悲しんではならない。
  • 自分のことについても他人のことについても、不平を言ったり嘆いたりしない。
  • 恋愛には感心を抱くな。
  • 物事に好き嫌いを持ってはならない。
  • 自宅を豪華にしようという心を持ってはならない。
  • 常に身一つ簡素にして、美食を好んではならない。
  • 代々伝えていくような骨董品を持ってはならない。
  • 体にこたえるような飲食、つまり暴飲暴食や無謀な行動をしてはなはらい。
  • 武具については特別な物を好んではならない。
  • 自分の道を貫くためには、場合によっては死に向かうこともあるが、それを避けてはならない。
  • 財産を貯えたり宝を持ったりしてはならない。
  • 仏や神は貴いけれども、これを頼りにしてはならない。
  • 自分の命が危険にさらされても、名誉心を失ってはならない。
  • 常に兵法の道から離れてはならない。



(原文)
一、世々の道をそむく事なし。
一、身にたのしみをたくまず。
一、よろづに依枯(えこ)の心なし。
一、身をあさく思、世をふかく思ふ。
一、一生の間よくしん(欲心)思はず。
一、我事におゐて後悔をせず。
一、善悪に他をねたむ心なし。
一、いづれの道にも、わかれをかなしまず。
一、自他共にうらみかこつ心なし。
一、れんぼ(恋慕)の道思ひよるこゝろなし。
一、物毎にすき(数奇)このむ事なし。
一、私宅におゐてのぞむ心なし。
一、身ひとつに美食をこのまず。
一、末々代物なる古き道具所持せず。
一、わが身にいたり物いみする事なし。
一、兵具は各(格)別、よ(余)の道具たしなまず。
一、道におゐては、死をいとはず思ふ。
一、老身に財宝所領もちゆる心なし。
一、仏神は貴し、仏神をたのまず。
一、身を捨ても名利はすてず。
一、常に兵法の道をはなれず。